参列前に不安を解消!神式の葬儀(神葬祭)の全知識と心得ておくべきマナー
「神式の葬儀に初めて参列することになったけど、仏式とは何が違うの?」「玉串奉奠(たまぐしほうてん)ってどうやるんだろう…」
身近な方の訃報を受け、悲しみに暮れる中で、慣れない儀式の作法に戸惑いや不安を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
日本の葬儀のほとんどは仏式で行われますが、神道に基づいた葬儀、**「神葬祭(しんそうさい)」**も存在します。神葬祭は仏式とは異なる独特の流れとマナーがあり、予備知識がないと緊張してしまうかもしれません。
でも、どうぞご安心ください。
このコラムでは、神葬祭の基本的な考え方から、当日の儀式の流れ、服装や玉串料(香典)といった重要なマナーまで、初めての方でも理解できるように、分かりやすく丁寧に解説していきます。この情報を読めば、神式の葬儀に自信を持って参列し、心穏やかに故人様をお見送りすることができるでしょう。
1. 神式の葬儀「神葬祭」とは?仏式との大きな違い
神葬祭とは、神道の教えに基づいて行われる葬儀のことです。仏式の葬儀が故人を極楽浄土へ導くことを目的とするのに対し、神道では故人の御霊(みたま)をその家や子孫を守る守護神とするという考え方が基本にあります。
この根本的な考え方の違いから、儀式や使用する言葉、道具にも様々な違いがあります。
1-1. 故人は守り神になるという考え方
神道では、人は亡くなるとやがて家の守護神となり、子孫を見守ると考えられています。そのため、葬儀は悲しみの儀式であると同時に、故人の御霊を家に迎え入れ、神として祀るための大切な儀式でもあります。仏式の「供養」という概念は存在せず、**「祀る(まつる)」**という言葉を使います。
1-2. 儀式で使う道具や言葉が異なる
項目 | 神式(神葬祭) | 仏式(一般的な葬儀) |
葬儀の名称 | 神葬祭、葬場祭(そうじょうさい) | 葬儀・告別式 |
通夜にあたる儀式 | 通夜祭(つやさい)・遷霊祭(せんれいさい) | 通夜 |
お供え物 | 神饌(しんせん:米、酒、水、海の幸、山の幸など) | 供物(くもつ)、お花、お菓子など |
お悔やみの言葉 | 「御霊(みたま)のご平安をお祈り申し上げます」 | 「心よりお悔やみ申し上げます」「ご冥福をお祈りします」 |
香典 | 玉串料(たまぐしりょう)、御榊料(おさかきりょう)、御霊前 | 香典(こうでん)、御仏前(ごぶつぜん) |
拝礼の作法 | 玉串奉奠(たまぐしほうてん) | 焼香(しょうこう) |
使用しないもの | 数珠(じゅず)、仏教用語(冥福、供養、成仏など) | - |
特に注意したいのは、仏教由来の「数珠」は持参せず、お悔やみの言葉として「ご冥福をお祈りします」といった仏教用語を使わないことです。
2. 【2日間】神葬祭の一般的な流れと儀式の意味
神葬祭は、仏式と同様に一般的に2日間にわたって行われます。地域や家、斎主(神職)によって異なる場合がありますが、ここでは一般的な流れをご紹介します。
2-1. 臨終から納棺まで
帰幽奉告(きゆうほうこく)と神棚封じ
故人が亡くなったことを、神棚や祖霊舎(それいしゃ:仏壇にあたるもの)に報告し、白紙を貼って扉を閉じる儀式です。これは、死を「穢れ(けがれ)」と捉える神道において、神聖な場所である神棚に穢れが及ばないようにするための作法です。
枕直しの儀(まくらなおしのぎ)
ご遺体を清め、白い小袖などを着せ、北枕にして安置します。枕元に祭壇(枕飾り)を設け、米や塩、水、酒、故人の好物などを供えます。
納棺の儀(のうかんのぎ)
ご遺体を棺に納めます。
2-2. 1日目:通夜祭と遷霊祭
通夜祭(つやさい)
仏式の通夜にあたります。神職が祭詞(さいし)を奏上し、故人の御霊を慰め、子孫の守り神となることを祈る儀式です。参列者は**玉串奉奠(たまぐしほうてん)**を行います。
遷霊祭(せんれいさい)
通夜祭の後に続けて行われる、神葬祭で最も重要な儀式の一つです。故人の御霊を、仮の御霊代(みたましろ)である「霊璽(れいじ:仏式の位牌にあたるもの)」へ移し留める儀式で、「みたまうつし」とも呼ばれます。この際、会場の照明を落として静寂の中で行われるため、参列者は静かに故人を偲びます。
直会(なおらい)
仏式の精進落としにあたり、通夜祭・遷霊祭が無事に済んだことを神職や参列者と共にお祝いする会食の儀式です。
2-3. 2日目:葬場祭と火葬祭
葬場祭(そうじょうさい)
仏式の葬儀・告別式にあたります。故人に最後の別れを告げ、永遠の別れを惜しむ、神葬祭の中心となる儀式です。神職による祭詞奏上や弔辞の奉呈などが行われ、参列者による玉串奉奠が再度行われます。
出棺祭(しゅっかんさい)
棺を霊柩車に移し、故人との最後の別れを告げる儀式です。
火葬祭(かそうさい)
火葬場で行われます。神職が祭詞を奏上し、参列者は玉串奉奠を行い、故人を火葬に付す前に拝礼します。
埋葬祭(まいそうさい)
遺骨をお墓に納める儀式です。(当日行わない場合もあります)
帰家祭(きかさい)と直会
葬儀を終えて自宅に戻った際、手水や塩で身を清める「帰家修祓(きかしゅばつ)の儀」を行い、無事に儀式を終えたことを霊前(仮の祖霊舎)に報告します。その後、直会(食事)が催されます。
3. 【最重要】神葬祭に参列する際のマナーと作法
神葬祭に参列する上で、特に心得ておくべきマナーと作法を解説します。
3-1. 服装:数珠は不要、仏式と同様の喪服で
神葬祭の服装は、仏式の葬儀と**基本的に同じ「喪服」**を着用します。
男性:ブラックスーツ(準喪服)に、白いワイシャツ、黒いネクタイ、靴、靴下。
女性:ブラックフォーマル(準喪服:アンサンブル、ワンピース、スーツ)に、黒のストッキング、靴、バッグ。
小物:アクセサリーは結婚指輪以外は外し、一連の真珠のみが許容されます。
数珠:仏具であるため、神式の葬儀では絶対に持参しません。
その他:殺生を連想させる毛皮や皮革製品は避けます。
急な弔問(通夜祭など)の場合は、地味な色の略喪服(ダークスーツ、紺やグレーのワンピースなど)でも問題ありません。
3-2. 玉串料(香典):表書きと相場
神式の葬儀では、香典ではなく「玉串料(たまぐしりょう)」または「御榊料(おさかきりょう)」「御霊前(ごれいぜん)」として金銭を包みます。
表書き:「玉串料」「御榊料」「御霊前」のいずれかを、薄墨で記入します。「御仏前」「御供物料」は仏教用語なので避けましょう。
水引:黒白または双銀の結び切りを選びます。
相場:仏式とほぼ同額で、故人との関係性によって変わります。一般的に、友人・知人は5,000円~1万円、親族は1万円~10万円程度が目安とされます。
3-3. お悔やみの言葉:仏教用語を使わない
受付などで遺族へお悔やみを述べる際は、仏教用語を使わないように注意が必要です。
避ける言葉:「ご冥福をお祈りします」「供養」「成仏」「ご愁傷様です(仏教用語ではないが、神式ではあまり使われない)」
適切な言葉:「御霊のご平安をお祈り申し上げます」「この度は誠にご愁傷様でございます」
忌み言葉:仏式と同様に「重ね重ね」「くれぐれも」などの重ね言葉や、「四(死)」、「九(苦)」などの忌み言葉は避けます。
3-4. 玉串奉奠の作法:しのび手で拝礼
玉串奉奠は、仏式の焼香にあたる、最も重要な拝礼の儀式です。「玉串」とは、榊(さかき)の枝に紙垂(しで)と呼ばれる紙片をつけたものです。
玉串を受け取る:自分の順番が来たら、玉串案(玉串を置く台)の前に進み、遺族と神職に一礼した後、神職から玉串を受け取ります。この時、右手で根元を上から、左手で葉先を下から支えるように持ちます。
玉串の向きを変える(祈念):玉串を胸の高さに捧げ持ったまま、時計回りに回し、根元が祭壇側に向くように持ち替えます。(玉串の根元が神様の方を向くのが正しい向きです)。この状態で心の中で故人の御霊の平安を祈ります。
玉串を供える:両手で玉串の中央付近を持ち、玉串案の上に静かに置きます。
拝礼(二礼二拍手一礼):玉串を供えたら一歩下がり、祭壇に向かって**「二礼二拍手一礼」**を行います。
作法 | 内容 |
二礼(にれい) | 90度の深いお辞儀を2回行います。 |
二拍手(にはくしゅ) | **音を立てない「しのび手(忍び手)」**で2回拍手を打ちます。これは、神社の参拝と異なり、お悔やみの場では音を立てないのがマナーだからです。(両手を打つ直前で止めたり、右手を少しずらして音を消したりします。) |
一礼(いっぱい) | 最後に90度の深いお辞儀を1回行います。 |
退席:数歩下がり、遺族に一礼してから席に戻ります。
4. 知っておくと安心!神葬祭に関するQ&A
Q1. 参列する際、手水の儀は必要ですか?
神式の葬儀では、穢れを清めるための「手水(ちょうず)の儀」を行う場合があります。式場に手水舎が設けられている場合は、手を洗い、口をすすいでから式場へ入るのが作法です。分からない場合は、周囲の方の行動を参考にしたり、係の方に尋ねたりすると良いでしょう。
Q2. 仏式でいう「法要」にあたる儀式はありますか?
神道では、故人の御霊を慰め祀るための儀式を「霊祭(れいさい)」と呼びます。亡くなった日から十日ごとに行う「十日祭」「二十日祭」などがあり、特に五十日祭は仏式の四十九日にあたり、忌明けの節目とされます。この五十日祭をもって、「神棚封じ」を解き、通常の生活に戻ります。
Q3. お供え物は何を持参すれば良いですか?
一般の参列者は、玉串料(現金)を包むだけで十分です。もし、特にお供え物を持参したい場合は、故人の好きだったお菓子や果物、お酒など(仏式でいう「供物」にあたるもの)を、のしをかけて持参するのが一般的です。ただし、生臭物(魚、肉など)は神饌として遺族が用意するため、避けた方が無難です。事前に遺族や葬儀社に確認しましょう。
まとめ:故人様を心静かに送るために
神式の葬儀「神葬祭」は、仏式と異なる儀式の名称や作法があり、慣れないうちは戸惑うこともあるかもしれません。
しかし、最も大切なことは、故人様の御霊を敬い、心静かに見送るという気持ちです。
仏教用語を避け、「玉串料」を用意し、「しのび手」で拝礼する、といった基本的なマナーを心得ておけば、失礼なく故人様を偲ぶことができます。
不安な点は事前に調べ、当日は落ち着いて儀式に臨んでください。故人様への感謝と別れの想いを胸に、心穏やかなお見送りができるよう、このコラムが皆様の一助となれば幸いです。